私の1日は幼馴染みである孝支くんに挨拶をして始まる。
「孝支くーん!おはよー!」
「あ、名前。おはよ。」
お互い朝練があり、家も隣ということもあって大体の日はこうして一緒に登校している。
「うーん、やっぱりもう寒いねぇ…。」
「11月だもんなぁ…。」
「なかなか布団から出られなくて辛い。」
「あはは。名前は寒がりだもんね、それに冷え性だし。」
下らない話をしながらのんびりと学校まで歩く。
その時、前の方に孝支くんと同じようなジャージを着た人が見えた。
「あ、大地。」
「やっぱりあれ澤村くんか。」
「あれ、名前って大地と面識あるっけ?」
「孝支くんがバレーの話する時、よく出る名前だしね。もう覚えちゃった。」
それに隣のクラスだからよく廊下とかで見かけるよ、と付け足すと成る程なー、という顔をされた。
「んじゃあそろそろ行くねー。またね、孝支くん!」
「おー。今日も1日頑張ろうな。」
そう言って私はテニスコートに、孝支くんは体育館の方へ歩きだした。
□ ■ □
「ねぇ、ほんとに大丈夫?1人で帰れるの?」
「大丈夫だって。案外なんとかなるもんだよ。」
心配してくれている友達をなんとか宥めてヒョコヒョコと足を少しずるようにして歩く。
「ちょっとこれは…、明日からテニス出来ないなぁ…。」
じわり、少しだけ潤んだ目を慌てて擦る。
もともとは自分の不注意が原因なのだ、仕方ない。
ぐ、と歯を食い縛って涙を堪えていた時
「名前!!」
大きく自分の名前を呼ばれてびっくりして荷物を落としてしまった。
「うわ、ごめん。そんなに驚くと思ってなくて…。」
「孝支、くん。」
なんでいるの、と少し突き放すような声音になってしまったけれどそれには気づかなかったのか孝支くんは捲し立てるように続けた。
「部活中に足挫いたんだろ?なんで1人で帰ろうとするの?」
「え、なんで足挫いたこと知ってるの?」
「先刻門のところでテニス部の子にあったんだよ。それで名前をよろしくって頼まれた。」
「まじか。」
「まじです。ほら荷物貸して。俺が持つ。」
「いいよ別に。自分で持てるもん。」
「自分で持てるかもしれないけど大変だろ。」
「大丈夫だもん!」
早く1人になりたくて友達を置いてきたのに、これじゃあ意味がない。
「……名前。」
そっと、優しい手つきで頭を撫でられる。
そこで、限界、だった。
「ふっ、ふぇ……っ!」
ぼろぼろと涙が溢れてとまらない。
どれだけ拭っても全然とまらなくて、
「いつもそうだよね、名前は。」
ポツリと呟かれた言葉。
「いつも涙を隠そうとする。1人で泣こうとするんだ。」
それはまるで血を吐くような、
「こんな時ぐらい俺を頼ってよ、そんなに俺って頼りない?」
悲しい、声で。
そしてゆっくりと抱き締められた。
自然と密着して、孝支くんの胸の辺りに顔があたる。
涙が服を濡らすから急いで離れようとしたけど先刻よりも強い力をこめられておとなしくするしかなかった。
あのあと、結局孝支くんは泣き止むまでずっと抱き締めてくれた。
「もう1人で泣こうなんて考えるなよ?」
「……うん、ありがとう孝支くん。」
そう言うとふわりと笑って。
帰ろうか、とゆっくりと家まで歩いた。
孝支くんと別れて今は自宅のベッドの上。
(……中途半端な優しさは、辛いだけだよ)
(勘違い、しちゃうじゃんか)
はぁ、と溜め息を吐き出して想い人を思い浮かべた。
はかない恋
もしかしたら両想いかもしれない、なんて
5/5